転職、異動、昇進、退職、独立、結婚、子育て、介護…。
人生には、さまざまな「変化」が訪れます。

そんな時、「この選択でよかったのだろうか」「これからどうすればいいのだろう」と不安になることはあるはずです。このような人生の転機を研究し理論化したものが「トランジッション理論」です。

トランジッション(Transition)とは、「移行」や「変化」を意味する言葉ですが、単に出来事が変わることではなく、その変化を自分自身がどう受け止め、新しい自分へ移っていくかという「心の変化」に注目した理論です。

今回は、その中でも代表的な3人の研究者の考え方をご紹介します。


変化を乗り越える力を考えた シュロスバーグ

まず紹介したいのが、ナンシー・シュロスバーグです。
シュロスバーグは、「人生では誰にでも予期しない変化が起こる。その時に重要なのは、変化そのものではなく、どう乗り越えるかである」と考えました。

そのために提唱したのが「4Sモデル」です。

  • Situation(状況)
  • Self(自分自身)
  • Support(支援)
  • Strategies(対処方法)

例えば転職や退職という同じ出来事でも、人によって受け止め方は異なります。
家族や仲間の支えがある人もいれば、一人で悩んでしまう人もいます。

シュロスバーグは、「環境や支援を上手に活用しながら変化を乗り越えていくこと」が大切だと教えてくれています。


キャリアは人生そのものと考えた スーパー

続いて、キャリア理論で有名なドナルド・スーパーです。
スーパーは、「キャリアとは仕事だけではなく、人生そのものである」と考えました。

私たちは人生の中で、さまざまな役割を担っています。
学生、社会人、管理職、親、地域の一員、そして退職後のセカンドキャリア。

人生のステージが変われば、大切にしたいことも変わります。
20代と50代で仕事への価値観が違うのは当然ですし、子育て中と子育てを終えた後でも働き方は変わります。

「今までと同じように働けない」と感じることは、決して後退ではなく、人生の役割が変化している証なのです。


ブリッジズが教えてくれた「変化の途中」の大切さ

私が特に好きな理論が、ウィリアム・ブリッジズの考え方です。
ブリッジズは、人は変化を次の3つの段階で経験すると考えました。

終わり(Ending)
今までの環境や役割を手放す時期

中立圏(Neutral Zone)
古い自分と新しい自分の間で揺れ動く時期

新しい始まり(New Beginning
新しい役割や価値観を受け入れ、新たな一歩を踏み出す時期

多くの人が苦しいと感じるのは、真ん中にある「ニュートラルゾーン」です。


ニュートラルゾーンは「止まっている時間」ではない

転職したばかり。

独立したばかり。

管理職になったばかり。

退職したばかり。

そんな時期には、

「本当にこれでよかったのかな」

前のほうが良かったかもしれない」

「何を目指せばいいのか分からない」

そんな気持ちになることがあります。

でも、それは決しておかしなことではありません。

ブリッジズは、この時期を「新しい自分が生まれるために必要な時間」と考えました。
焦って答えを出そうとするのではなく、一度立ち止まり、自分を見つめ直す
これまでの経験を振り返り、自分にとって本当に大切なものを考える。
その時間があるからこそ、新しいスタートに意味が生まれるのです。

私はこの考え方がとても好きです。

実は、私の屋号である「Neutral Zone(ニュートラルゾーン)」も、この理論に由来しています。

ニュートラルゾーンとは、「何もしていない場所」ではありません。
迷いながらも、自分らしい次の一歩を準備するための、大切な時間なのです。


迷える時間に寄り添う存在でありたい

私は30年以上勤めた職場を退職し、独立しました。
企業研修やキャリア相談を行いながら、就労移行支援事業所でも働いています。

最初から今の形が見えていたわけではありません。
「これでいいのだろうか」と考えることも何度もありました。
でも振り返ると、その迷っていた時間があったからこそ、今の仕事や出会いにつながっています。

これまでにご紹介したプランド・ハップンスタンス理論は、「偶然を生かすこと」の大切さを教えてくれました。
キャリア・カオス理論は、「人生は思いどおりには進まない」ということを教えてくれました。

そして今回のトランジッション理論は、「変化の途中で迷うことは自然なことであり、その時間こそ自己理解が進む時間でもある」ことを教えてくれます。

人生には、すぐに答えが出ない時期があります。
しかし、その時間は決して無駄ではありません。

もし今、何かに迷っているのであれば、その時間もあなた自身のキャリアを育てる大切なプロセスなのだと思います。
そうした時間に寄り添うカウンセラーコンサルタントでありたいというのが社名のNeutral Zoneに込めた思いなのです。

焦らず、一歩ずつ。

その先には、きっと新しい「始まり」が待っています。